あるいは勇んで躍り込みたる白銅あり。あるいはしぶしぶ捨てられたる五厘もあり。ここの一銭、かしこの二銭、積もりて十六銭五厘とぞなりにける。
 美人は片すみにありて、応募の最終なりき。隗の帽子は巡回して渠の前に着せるとき、世話人は辞を卑うして挨拶せり。
「とんだお附き合いで、どうもおきのどく様でございます」
 美人は軽く会釈するとともに、その手は帯の間に入りぬ。小菊にて上包みせる緋塩瀬の紙入れを開きて、渠はむぞうさに半円銀貨を投げ出だせり。
 余所目に瞥たる老夫はいたく驚きて面を背けぬ、世話人は頭を掻きて、
「いや、これは剰銭が足りない。私もあいにく小かいのが……」
 と腰なる蟇口に手を掛くれば、
「いいえ、いいんですよ」
 世話人は呆れて叫びぬ。
「これだけ? 五十銭!」
 これを聞ける乗り合いは、さなきだに、何者なるか、怪しき別品と目を着けたりしに、今この散財の婦女子に似気なきより、いよいよ底気味悪く訝れり。

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